ジュンアイは、簡単じゃない。
雨の中を……
真っ暗な闇の中を……
無我夢中に、ひた走る。
スニーカー中に……雨が染み込んで。
地を蹴るその度に、ぐちゃぐちゃと…音をたてていた。
街の街灯も、自販機も……
自分の役目を忘れたかのように……眠り続ける。
それでも。
私の瞳は……いつだって的確に、アンタを探しあてることが …できるんだ。
何の取り柄もないけど……それが、私の…特技だ。
遠くに見えた背中が…大きくなって。
それが…セナくんのものだと、確信したとき。
「………セナくん!!」
私は……
ありったけの声で……叫んだ。
歩みを止めたセナくんは。
ゆっくりと……こちらに、振り返る。
いつもはクールで、涼しい目元を。
明らかに…大きく見開いて。
「………忘れもの……!」
「…………え?」
「………傘…!」
「…………………。なに…してるんだ、アンタがさせよ。」
「だから、アンタに……貸したくて。おあいこ!さっき……助けて貰ったし。」
「…………。」
「等価だよ。これで…私もアンタへの借りは……チャラ。それなら…いいでしょう?」
髪の毛から、雫がポタポタと垂れて。
ビショビショに濡れている私は…
きっと今までで一番、無様な姿だろう。
でも…、ね。
アンタだったら……、今更、気にもならないでしょ…?
「傘一本で……チャラか。随分…安いもんだな。」
「……私にはこれくらいしか…できないもの。」
「……。無茶苦茶だ、でも……悪くはない。」
目一杯伸ばした手元から…
セナくんは、傘を抜き取る。
「早く帰れよ。」
「言われなくても…、帰りますよーだ!」
ベーっと舌を出して。
体を…翻すと。
私は…、一目散に、駆け出した。
熱くなった心に、冷たい雨が降り注いで…
少しだけ、ここちよく…感じていた。
ピタリと足を止めて。
彼の方へと…振り返る。
「ぶっ……!傘…、さしてるし!」
セナくんに貸したのは……
私の、黒い傘。
多分…見えてないだろうけど、白の水玉が…可愛いの。
「天下の瀬名広斗が……水玉か。」
ちょっとした……仕返し。
ムカつくのに、ドキドキさせられた……。