ジュンアイは、簡単じゃない。
そう……、
毎日のお楽しみは……密かに、もう1つ。
遠く離れたあの人……、
瀬名 広斗くんを、観察すること。
彼は私とはまるで…対照的。
常に成績トップをひた走る、特進クラスの期待の星。
背は高く、秀でたルックス。
運動神経も抜群で、実は実家はお金持ちだとか…。
とにかく、非の打ち所のない男。
そんな彼に初めて合ったのは……あの日。
ちょうど…2年前に、遡る。
入学したての、登校初日。
早速遅刻しそうになった…月曜日。
ちょうど今日みたいに、青々とした空が広がる…爽やかな朝だった。
春の芽吹きを感じる暇もなく、大いに慌てて校門の数十メートル手前に走りついた私。
膝に手を置いて、時計とにらめっこしながら…、ゼーゼーと呼吸を整えていたその直ぐ側を。
僅かに……風が掠めていった。
「………。」
あっさり私を追い抜かし、かといって急ぐ訳でもなく、長い足でスタスタと先行く彼の背中を…
思わず、睨み付ける。
こちとら、必死になって走っているのに。この短い足が歩む一歩が…もどかしいのと、惨めなのと。
彼が校門へと足を踏み入れた瞬間に。
私の目の前で…
それがゆっくりと閉ざされていった。
「……ちょ…、待って…!もう一人いま~~すっ!」
右手を前につき出して、手をかける先生へと、猛アピールを試みると。
先を歩いていた彼が……くるりと振り返った。
にこりとも笑わず、表情は…無のまま。
彼は先生の方へと、向きなおして。
なにか……話しかける。
余りにも、その人の整った容姿に……私はつい、目を見張った。
『こんな素敵な人が……同じ学校に…!』
ゆっくりと、また校門が開いていく頃には……
すでに、その背中は遠く離れていた。
「……あの……!!」
思いきって、そう叫んだけれど。
校舎に響き渡っていたはずのその声は…届くことはなく。
私は…小さな声で、呟いた。
「……ありがとう…。」
あれから、彼を見る度に。
どうにかして近づきたいと思っていたけれど……。
時すでに…遅し。
入学式の新入生代表の挨拶で、彼は壇上に立ち。
その存在はすでに周知であって……。
とっくのとうに、羨望の眼差しを一手に担っていたのだから。
入学式にコンタクトをいれ忘れた私は、その時大あくびをするばかりで……我ながら、呑気なものであった。
つまりは、スタートから出遅れて……
それから、次第に差をつけられて……。
あれから…まるまる2年。
雲泥の差、月とすっぽん、天と地……!
そう……、
下手したら、最も彼から遠い存在になってしまった。