眠り姫はひだまりで【番外編】
「三階の空き教室で見つかったって言ったら、『あー、じゃああの時落としたのかなぁ』とか言って笑ってたらしいよ、その人」
「…案外、ふつーに落としただけじゃん」
純くんが、小馬鹿にしたように笑う。
私はむっとして、「これだけじゃないんだよ」と言った。
「この空き教室はねえ、恋人達のお城だったんだよ!」
今度こそ、しらっとした目を向けられた。悲しい。
「…なにそれ」
「この空き教室の鍵と特別ルートは、すっごく伝統あるものだったんだよ!」
お兄ちゃんがその人から聞いた、もうひとつのこと。
それは、この空き教室にまつわる恋のエピソードだった。
私は両手を合わせると、感情を込めて語った。
「数十年前にね、偶然特別ルートを見つけた男子生徒が、この教室に入ったとき、そこには綺麗な女子生徒がいてね…」
彼女はこの空き教室の鍵を持っていて、度々ここで読書をしていたという。
そうして偶然な出会いをしたふたりは自然に仲良くなり、やがて恋人同士に。
この誰にも秘密の場所で、ふたりだけの時間を過ごしたんだって。