【短編】あなたの隣で目覚められたら。
何か本を読んでいた孝二くんだったが、洗面所の上の棚からドライヤーを出してくれた。
「ありがとう。」
「…あの。」
「ん?」
「俺が乾かしてもいいですか?」
「え?何で?」
「乾かしたいからです。」
そう言って、リビングへと向かってソファーに座った。
今日の孝二くん絶対おかしい。
失恋でおかしくなっちゃった?
「いいよ。自分でやるから。」
恥ずかしいから止めてほしいのに、孝二くんはドライヤーのスイッチをオンにした。
座っている自分の足の間をぽんぽんしている。
私は恥ずかしくて俯きながらも、諦めてその隙間に座った。
「はーい、前向いてください。」
何がはーいだ。
優しい手つきで私のセミロングの髪を乾かす孝二くんは、何だか慣れているみたいだった。
乾かすのに割と時間がかかる長さな上に、気まずいのと恥ずかしいのとで、余計に時間が長く感じられた。
「はい、終わりました。」
「…ありがとう。」
きっと今、私の顔は赤い。
お風呂上がりとか、ドライヤーの熱だとか、そういうのではない。
髪を乾かしながら時折耳に孝二くんの指が当たる度に、身体がびくんと反応してしまいそうなのを、必死に堪えていた。
ドライヤーを置きに行った孝二くんは、手に缶ビールを持っていた。
「喉、渇きません?良かったら飲みませんか?」
「…飲みます。」
私はやっぱり孝二くんを直視できなくて、ぶっきらぼうな態度をとるしかなかった。