《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「……らい、あー?」

「違うっ…! ラ イ ア じゃあなくて、ラインアーサ!」

 自分の名前はそんなにも言いづらいのだろうかと少々気が立ってしまった。そもそも、周りや実の父にさえ真名(まな)ではなく愛称で呼ばれるのだ。この事は常々疑問に思っていた。何故ならラインアーサと真の名で呼ばれることは滅多にないからだ。
 強めに言い直した声色に驚いたのか、少女の眉が八の字に下がる。瞳が再び潤み今にも涙が零れ落ちそうだ。

「っふぇぇ……」

(ま、まずい、これは泣く!)

 ここで再び泣かれるのも厄介だ。

「ああ、もう。ライア! ライアでいいよ。だから泣かないで? ほら!」

 ラインアーサはなるべく優しい声でそう言うと、にっこりと笑顔を作って見せた。正直、母の事が気掛かりできちんと笑えているかわからなかったが、目の前の幼い少女を安心させようと半ば必死だった。すると少女は恐る恐る顔を上げて、ラインアーサの顔をそろりと覗き込んできた。

「……?」
(?? なんだ…?)

「……らいあ、おにいちゃん、、わらったおかお、とってもかわいい……きらきらのおひさまみたいね」

「っ…え、はぁ? 可愛い!? お日様?」
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