《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
昔馴染み
「──お久しぶりです、アーサ殿下!」
ラインアーサは楓樹の都と旧市街・夕凪の都の境界にある国営警備隊の訓練所へ視察に来ていた。そこで久々に会う、幼馴染のジュリアンへ声を掛けたのだが……
「なんだよ、ジュリ。……そんな畏まった呼び方」
ジュリアンはジュストベルの孫である。更に言えば彼の母親であるサリベルはラインアーサの乳母であった為、歳の近い二人は兄弟同然に育った。ラインアーサが国を発つ以前は、気軽に愛称で呼び合う仲だった筈なのだが。
「一応、俺は殿下に仕える身だからな」
そう答えるジュリアンの声は朗らかで、何処か茶目っ気のある言い方だ。赤茶で癖毛の髪に明るい緑の瞳が、ジュリアンの表情に華やかさを加える。
「…っくく! なんてな、仕えてるのは本当だけど。いや、けど四年ぶり位か。なあ、後で剣の手合わせしようぜ! アーサも鍛錬は続けてるんだろ?」
「まったく……変な呼び方するなよ、びっくりするだろ! それにもう敵わないって。ジュリと違って俺は元々剣術は得意じゃないしな…」
以前はよく此処へ通い護身の為の剣術や体術を学びに来ていたが、当時で体術は互角だったものの剣術でジュリアンに優ったことは無かった。