《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 唐突にそんな事を言われ狼狽えていると、少女はラインアーサの顔に小さな手を伸ばしてきた。

「あ! ここ、ち、でてるよ……いたい? スゥがなおしてあげる。だから、ライアおにいちゃんも、なかないでね……」

 少女は覚束無い手つきでラインアーサの口の端に触れた。

「なっ……!?!?」
(ななな、なんなんだ!!? それに俺は泣いてなんか、ない…っ)

 さっき迄の取り乱した自分の姿を見透かされた気がして、ラインアーサの頬は一気に熱くなった。

「ライアおにいちゃん、すごくおめめあかいもん。おけががいたくてないちゃったの? あのね。スゥもよくおけがするの。だからパパがね、こうするとすぐになおるって……」

 たどたどしく話す少女の小さな頭がラインアーサの顔に重なり小さな水音が耳に届く。

「っっ!!?」

 口の端に温かく小さな唇の感触。
 ピリッと電撃の様な小さな刺激が走った。同時にふわりと花の様なとても良い香りがする。その瞬間、ラインアーサの思考は停止した。

 ────今、何を……?
 考えの纏まらない頭で必死に考える。今しがた出会ったばかりの、しかもまだ幼い少女に、突然唇を……奪われたのだ。
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