《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
(あー、もう……どうかしてる)

 これでは街にいた粗暴者となんらやってる事は変わらないではないか…。と分かっているのに衝動を止められなかった。今までのラインアーサからしてみれば絶対にあり得ない行動だ。

「お前、俺が今から何するか全然考えつかない訳?」

 つい口調がきつくなってしまう。しかし、スズランは首をかしげて真っ直ぐこちらを見つめ返してくる。

「……なにか、するの?」

 無意識でやっているのだろうか。その僅かに首を傾げる姿さえラインアーサには十分眩しく映る。そんな瞳で見つめられたら大抵の男は悪い事をしている様な罪悪感が芽生えてしまうだろう。
 いや、既にしているのか──?
 スズランの前だとラインアーサの中の天邪鬼な部分が増長してしまい、素直になる事が出来ない。自分でも何がしたいのか分からない。

「もっと色々警戒しろって事だよ。お前無防備すぎ」

「……警戒?」

 心の奥底では守ってやりたいと思っているのに、それを上手く言葉に出来ない。どうしたら、ラインアーサにもあの笑顔を見せてくれるのだろう。あの可憐な笑顔を〝自分〟にも向けて欲しい。それが本音だ。

「……スズラン」

 ほぼ無意識に名前を呼んだ。
< 120 / 529 >

この作品をシェア

pagetop