《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「……だったらっ、本当にもうわたしの、事はかまわないでって言って……っふ…、うう」

 散々言い合い、はっと気が付くとスズランが涙を零しながらこちらを睨みつけてきていた。その泣き顔にラインアーサの心は激しく乱され、無意識的にスズランを抱きしめていた。

「馬鹿。なに泣いてるんだよ…!」

 先程宥めた時にも思った。抱き心地のよいふっくらとした胸とは逆に、ものすごく華奢な腕。子供(ガキ)だなんてとんでもない、繊細でもしっかりと大人の女性の身体つきだ。しかし、ちゃんと食事しているのかと疑いたくなる程の細腰は、ラインアーサが力加減を間違えたら折れてしまいそうだった。

「……は、離してっ」

「嫌だ」

 スズランは懸命に抵抗しているが、ラインアーサはわざと腕に力を入れて抱きしめた。スズランの持つ君影草に似た香りに、頭の芯がくらくらとしてくる。
 ───そう、口実は何でもよかった。
 スズランの事をずっとこうして抱きしめてみたかったのだから。

「っ…はなしてったら!!」

「駄目…」

 腕の中でいやいやとする様に頭を振る姿が可愛い。こうやってますます意地悪したくなってくるのは、最近のラインアーサの悪い癖だ。
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