《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 その後、ラインアーサはイリアーナからの質問責めに遭っていた。スズランの事やリーナの事について散々尋ねられ、それを何とかぼかして答えているうちに刻々と時が過ぎて行った。
 確かにリーナに対する愛情はある。しかし幼い頃から一緒に育った事もあり、もはや本当の妹の様に思っている。彼女が何か困っているのなら手助けするのはもちろん、いつだって力になってやりたい。
 だがスズランは違う。想い浮かべるだけで全身が沸き立つ様な感覚に陥る。その姿を目の前にすると冷静な判断が出来ず余裕がなくなり、正直自分でも格好悪いと思う。
 思い出しては胸が(くる)しくなる。あれ以上嫌われたくなかった筈なのに、また無理矢理に口づけをしてしまった。
 しかし始めは抵抗を見せるものの、ラインアーサに対する怯えの様なものは感じられず次第に甘くとろけてゆくスズランの唇。
 だから勘違いしそうになってしまう。そんな都合の良い自身の思考に呆れ、自己嫌悪に陥った。


 寝室の出窓からあの森を見下ろす。
 森の樹々がやけにざわつくのは何故だろう。ラインアーサは森から目を逸らすと垂れ絹(カーテン)を降ろして固く瞳を閉じた。
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