《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
太い幹を付けた大きな樹の前で、ジュリアンは不意に足を止めた。
「たしかこの樹じゃなかったか?」
ジュリアンが木の幹に手を掛けた瞬間、記憶の中ではもっと幼かった自分たちの姿を思い返す。
「ああ、そうかも。登ってみるか!」
ラインアーサも思わず童心に返って、洞や枝に手足を掛けて器用に樹を登り始めた。
「……やっぱり、何も残ってないか。この辺に吊り床かけて寝転んだりしたよなぁ。ジュストじい様の厳しい授業を抜け出してさ」
「意外と悪ガキだったんだな、俺ら…」
ラインアーサもジュリアンも幼い頃を思い返し苦笑した。
高い樹の上は地上よりも澄んだ風が吹く。心地の良い風はやはりラインアーサの心を癒す。この澄み渡る風をスズランと一緒に感じる事が出来たら、どんな気持ちになるだろうか。
───昨晩。
この森にスズランが来ているかもしれないという直感の様なものが微かながらも働いた。だが仮にそうだとしても、ラインアーサはどうしてもスズランに会いに行くことが出来なかった。彼女の顔を見れば、募る想いを自制しようとしてまた酷い言動を取ってしまうかもしれない。
「たしかこの樹じゃなかったか?」
ジュリアンが木の幹に手を掛けた瞬間、記憶の中ではもっと幼かった自分たちの姿を思い返す。
「ああ、そうかも。登ってみるか!」
ラインアーサも思わず童心に返って、洞や枝に手足を掛けて器用に樹を登り始めた。
「……やっぱり、何も残ってないか。この辺に吊り床かけて寝転んだりしたよなぁ。ジュストじい様の厳しい授業を抜け出してさ」
「意外と悪ガキだったんだな、俺ら…」
ラインアーサもジュリアンも幼い頃を思い返し苦笑した。
高い樹の上は地上よりも澄んだ風が吹く。心地の良い風はやはりラインアーサの心を癒す。この澄み渡る風をスズランと一緒に感じる事が出来たら、どんな気持ちになるだろうか。
───昨晩。
この森にスズランが来ているかもしれないという直感の様なものが微かながらも働いた。だが仮にそうだとしても、ラインアーサはどうしてもスズランに会いに行くことが出来なかった。彼女の顔を見れば、募る想いを自制しようとしてまた酷い言動を取ってしまうかもしれない。