《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
情報収集という名の
報告書類を読み上げるハリの声が執務室に響く。しかし何処か上の空なラインアーサの耳には届いて来なかった。
「ライア。聞いてます? 今日一日、いえ。最近ずっとうわの空ですが。……それに、溜息が多いですね。まるで恋煩いでもしているかの様です」
「……」
「ライア…!」
「……え、ああ。悪い、はじめから頼むよ」
「全く。これで何度目だと思ってるんです?」
「ごめん」
今日一日このやり取りを何度か繰り返している。ラインアーサは日々公務に没頭し、例の想いを振り切ろうとしていた。だが、不意に気を抜くと考えてしまうのどうしてもスズランの事だった。
「公務とは言え、最近根を詰めすぎかと…。疲れが取れていないのならもう一度休暇を取りましょうか?」
「大丈夫だよ。この仕事を終えれば旧市街の視察へ出れるし、ジュリにもそう伝えてある」
「ですが、旧市街の件はそう無理してまで視察に行かなくても。最近は目立った報告もありませんし」
目立った報告がないことにラインアーサは一先ず安堵する。
あの日……。
スズランが旧市街の粗暴者に絡まれていたのを思い返すだけで身の毛がよだち、焦りに似た怒りの様な感覚に苛まれた。
「ライア。聞いてます? 今日一日、いえ。最近ずっとうわの空ですが。……それに、溜息が多いですね。まるで恋煩いでもしているかの様です」
「……」
「ライア…!」
「……え、ああ。悪い、はじめから頼むよ」
「全く。これで何度目だと思ってるんです?」
「ごめん」
今日一日このやり取りを何度か繰り返している。ラインアーサは日々公務に没頭し、例の想いを振り切ろうとしていた。だが、不意に気を抜くと考えてしまうのどうしてもスズランの事だった。
「公務とは言え、最近根を詰めすぎかと…。疲れが取れていないのならもう一度休暇を取りましょうか?」
「大丈夫だよ。この仕事を終えれば旧市街の視察へ出れるし、ジュリにもそう伝えてある」
「ですが、旧市街の件はそう無理してまで視察に行かなくても。最近は目立った報告もありませんし」
目立った報告がないことにラインアーサは一先ず安堵する。
あの日……。
スズランが旧市街の粗暴者に絡まれていたのを思い返すだけで身の毛がよだち、焦りに似た怒りの様な感覚に苛まれた。