《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「っハリ、今……自国って! その自国ってルゥアンダ帝国の事だよな? もしかして、何かの記憶…」

 ラインアーサは思わず掛けていた椅子から立ち上がり、仕事机に手を着き身を乗り出した。その勢いで書類が床に散らばった。

「……いえ。今ふとそう思っただけです」

 一瞬ハリが考え込む様な表情をしたが、指先を眉間に押し当てそう呟いた。
 記憶を無理に引き出すのは脳に負担を掛けるらしい。実際ハリも思い出そうと記憶を辿ると頭痛が起こる様で、ラインアーサも無理はして欲しくなかった。
 ならばやはり今日会わせたいと思う人物との接触は、ハリにそういった負担を強いる可能性があるため無理には会わせない方が良いのかもしれない。

「……そうか。やっぱり今日は俺一人でゆっくり息抜きしてくるよ」

 ハリは落ち着いた動作で散らばった書類を拾い集めると仕事机に揃えて置きなおした。

「ライア。陛下やイリア様に心配をかける行為だけはくれぐれも…」

「ああ、もう分かってるって! 最近ハリはだんだんジュストベルに似てきたんじゃあないか? 説教っぽい所とか特に!」

「それは光栄ですね。この国においてジュストベル様は私の一番の師範(しはん)ですから」
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