《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「な、なんだよっ」

「───俺は…」

 ラインアーサはセィシェルに自身の真名(まな)を告げようとした。この少年が愚かでなければその意味を理解できた筈であろうが、スゥの消え入る様な声にその行為は引き留められてしまった。

「っごめんなさい、セィシェル……スゥ、ちゃんとかえる。かえるから、ライアおにいちゃんとけんかしちゃやだ…!」

「ふん……。おいあんた! ライアとか言ったな? まぁ人攫いにしちゃあ若すぎるし何者か知らないけど、勝手なことするなよ? スズは俺の家で引き取った子だ! ちゃんと親父もいるんだからな。ほら行くぞ、スズ」

 相も変わらず偉そうな口調で話すセィシェルに苛々しながらも、スゥ……スズに視線を移す。

「……でも、セィシェルのパパはスゥのパパじゃないもん…! スゥのパパは、スゥがおりこうにしてたらおむかえにくるもん!」

 涙を湛えながら必死に頑張るスズに心が痛んだ。

「もういい加減に諦めろよ! おまえの父親はおまえのことおいて行ったんだぞ!! おまえは捨てられ…」

「っ…いい加減にするのはお前の方だろう」

 ラインアーサはセィシェルの言葉を遮ると、スズの目の前に膝をついて視線を落とした。
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