《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「あたし、ご飯まだって言ったじゃあない。ライアが奢ってくれるんでしょう?」

「別に、それは構わないけど…」

 確かにそうは言ったが、何処か腑に落ちないのは何故だろう。

 ───崖の上の酒場(バル)へ着くと、エリィは混み合う店内を避け誰もいない戸外(テラス)に席を取った。戸外(テラス)の席はこの酒場(バル)が崖の上という立地の為、楓樹の都の景色が一望出来る。言わば、恋人達の逢瀬に人気の場所だ。しかしながら陽が落ちて気温が下がり切ると、殆どの客が店内の窓際席で夜景を楽しむ。

「今日は一段と風が吹くわね」

「天気が悪いからな。エリィは寒くないのか?」

 崖の上とあってか若干風が強い。
 夜間に備えて着込んでは来たものの、時折吹きつける強い風がラインアーサのマントをはためかせる。

「あたしはお酒と温かいお料理があれば平気よ」

 ラインアーサよりもだいぶ薄着に見えるエリィ。流れる様な濃紺の髪が風にさらわれ、今にも闇夜に溶け消えてしまいそうだ。

「この時間だと外には誰もいないんだな。知らなかったよ」

「穴場でしょう? 内緒話には打って付けって訳よ。うふふ」

 エリィが不敵に微笑む。

「……エリィ。君こそ一体何者なんだ?」
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