《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 スズは俯き、必死に声を押し殺していた。そんなスズの姿を目にした途端、ぐっと息が苦しくなった。

「っ…ぱぱ、おむかえくるっていったもん……でも、ほんとうはスゥ、おいていかれちゃったの? …っママも、パパも……もうスゥのこといらないの?」

 スズの綺麗な瞳からは次々と大粒の雫がこぼれ落ちる。
 ああ、せっかく涙が止まったのに───。
 ラインアーサは思わずスズを抱きしめた。また、ふわりと花の様な香りがする。

「……っそんな事ないよ! パパはきっとスゥのこと迎えに来てくれるって! スゥがお利口にしてたら迎えなんてすぐだ」

 もう一度スズのあの笑顔が見たくて、ラインアーサはスズを懸命に励ました。

「おい、勝手なこと言うなよ! そんな無責任なことを言って、もし来なかったら傷つくのはスズなんだぞ」

 セィシェルが再び息巻いて声を上げた。どうやらその口振りからすると、これ以上スズが傷付かない様に敢えて口を悪くしているかに思えた。だからと言って「お前は捨てられた」と言い聞かせる事には賛同出来ない。

「スゥ……お利口にするなら泣いちゃ駄目だ。スゥがちゃんとお家に居なきゃあ、パパが迎えに来た時わからなくなっちゃうだろ?」
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