《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「今日、本当は一緒に連れて来る予定だったんだが都合がつかなくてな。容姿から見てもおそらくルゥアンダ帝国出身だと思うんだが、彼は内乱以前の記憶がほとんど無いんだ」

「記憶が無いの…?」

「ああ。だから何かの手掛かりにとエリィに会わせてみたかったんだけど、あまり無理させても本人の負担になるし…」

「……そうね」

 ハリが記憶を呼び起こそうとする際、いつも指先を眉間に押し当てていたのを思い出す。そして一旦その頭痛がおこると、どんなに高度な癒しの煌像術(ルキュアス)を持ってしても和らげる事は出来なかった。

「あ。ちなみに俺もある程度の煌像術(ルキュアス)なら使えるつもりだけど、それでルゥアンダに入国出来るのか? 魔像術(ディアロス)って言うのと煌像術(ルキュアス)がどう違うのかは分からないけどな」

「少し使える程度じゃあ駄目なのよ、とても高度で複雑な術式を組まないといけないんだから」

「ふーん。それで…?」

「って! 何よ、教えないわよ? まあでも、この国の民には絶対に無理じゃあないかしらね」

「……何故、そう言い切れるんだ?」

 エリィの少々癪に障る言い方には思う所があったが、そうまで言い切る理由が気になる。ラインアーサは顔色を変えず冷静に回答を求めた。
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