《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「そろそろ起きてください、間もなく国境ですよ」

 まったく。と小さく溜息が聞こえてきて少々申し訳ない気持ちになる。

「……ん、悪い。すっかり寝てたみたいだ」

 ラインアーサは目の前の人物。
 ────ハリに謝罪しながら、(もた)れていた座席から身を起こして大きく伸びをした。
 より落ち着き払った雰囲気を纏うハリ。
 深い榛摺色(はりずりいろ)の髪に、切れ長で闇夜の様な漆黒の瞳がより彼を落ち着いた雰囲気にさせている。歳はラインアーサより三つ上で何時も冷静に物事を判断するハリだが、余り表情に色がないのは彼が孤児であるせいだろうか。
 十一年前───。
 内乱が収束しても尚混乱が続く中、酷く負傷して旧市街の路傍に倒れていたのがハリだ。それをラインアーサが発見し手当てをし、王宮にて保護をした。以来ラインアーサの側近としての役割を果たしてくれている。

(うな)されてましたよ、少し」

「ああ……夢をみてた。たまに見るんだ、母上が死んだ日の夢」

 ラインアーサは車窓を眺めながら呟いた。
 広大な大地を、二人を乗せた列車(トラン)が颯爽と走り抜けてゆく。
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