《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
週末。ラインアーサは公務を早めに切り上げ、王宮の書庫にて古い書史や術に関する辞典などを読み漁っていた。数少ない移動術関連の文書にはやはり古の術としか書かれておらず、どの本を見ても詳しいことは解らなかった。
古代リノ族の事が書かれている書物も存外少なく、今にも表紙が朽ち果てそうな古い書物にのみ数頁にわたって詳しく書かれている。しかし文字が掠れており所々読めなくなっていた。
薄暗い書棚の間でその頁にを読むのに熱中していると、突如後ろから目隠しをされどきりとした。
「うわっ!?」
「うふふ、珍しいわねアーサ。こんな所でお勉強?」
「あ……姉上!」
振り向くとイリアーナが手押し車の台にお茶の用意と焼き菓子を載せてにっこりと微笑みながら立っていた。
「何をそんなに熱心に読んでいたの? こちらに来て少しひと休みしない?」
「ありがとう姉上! ちょうど小腹が空いてきた所だったんだ」
イリアーナの提案にラインアーサは嬉々として本を閉じ、早速手押し車の上から焼き菓子を一つ摘まんだ。
「もうアーサったら…! 今日は果物入りの焼き菓子を焼いたのよ。たくさんあるから食べてちょうだいね?」