《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「生まれる、前から…。ああ、あと姉上は母様(かあさま)が古代リノ族の潜在能力を秘めていたって知ってた?」

 何気無く古代リノ族の話題に触れてみる。しかしイリアーナからの返答はない。

「姉上?」

 イリアーナの表情を確認すると、瞳を見開いたままで心ここに在らずといった感じであった。

「……」

「姉上ってば! 具合悪いの? 顔色良くないみたいだけど、癒しの風使おうか?」

「……えっ? あ、大丈夫よ! ちょっとお茶を濃く淹れすぎちゃったかしらと思って…」

「? ……そんな事ないけど」

 イリアーナの態度があからさまに一変した。自らの手元をじっと見つめている。その手元も僅かに震えていた。

「姉上! やっぱり具合が悪そうだよ。リーナを呼ぶから部屋に戻った方がいいかも」

「……そうね、そうしようかしら」

 呼ぶとリーナはすぐにやって来て、心配そうにイリアーナを連れて書庫から退室していった。

「どうしたんだ? さっきまでは元気だったのに…。やっぱりブラッド兄様にしばらく会えてないから寂しいのかな」

 ラインアーサは冷めてしまったお茶を飲みながら、調べ物へ戻ろうと先程の古い書物へ手を伸ばした。
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