《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 しかし、先程まで読んでいた筈の書物はそこには無かった。

「あれ? おかしいな、書棚に戻したっけか…」

 その後くまなく書棚を探したのだが、古のリノ族について書かれたあの書物は見つからなかった。

「まあ……いいか。掠れて文字も読み難かったしな」

 読めた部分のみを頭の中で反芻(はんすう)しつつ、(まと)めてゆく。
 ───古代リノ族は今のパルフェの人種に近い存在で、やはり光の術を扱えるようだった。だが、それ以上の違いがわからない。

「古代リノ族の潜在能力ってなんだろう…。父上なら知ってるかな」

 夕方になり薄暗くなった書庫を退室すると、ラインアーサはライオネルの執務室へと足を向けた。執務室の扉を軽く叩くも部屋の中からの返事はない。何時もならこの時間帯には大抵此処に居るはずなのだが。

「父上、いないのか……自室かな?」

「ライア。何かありましたか? 陛下なら本日はお出掛けで遅くまでお戻りにならない予定ですが」

「ハリ! そうなのか。教えてくれて助かるよ!」

 廊下を通りかかったハリにライオネルの不在を知らされる。そこでハリの顔を見た途端、ふと別の用件を思い出した。
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