《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 それでも、と。ラインアーサはハリの後ろ姿に声をかけた。

「そう言えば、ルゥアンダ帝国の人種が酒豪ってのは本当みたいだな」

「そうなんですか?」

 ハリは足を止め肩越しに振り返る。

「ああ、先日会った人物がそうだっただけで、全体がそうとは限らないけど…」

「この国にルゥアンダ人だなんて、珍しいですね」

「そうだな。でも人捜しをしているらしくて、あの時を最後にこの国を発ったんだ。時間があればハリにも会わせたかったんだけどな」

「人捜し、ですか…。なんだか懐かしいですね。その方にお会い出来なかったのは残念です」

 ハリはそう呟き、今度こそ去って行った。

「……ハリの奴、そんな夢を見てたのか。なら俺にも一言相談位してくれたって良かったのに」

 そんな悩みを抱えていたのにも関わらず、ハリから一言も相談されなかった事にラインアーサは心なしか淋しさを覚えた。


 *   *   *


「───で、それで今日ずっと元気なかったのか?」

「そういう訳じゃあないよ。最近少しやる事が多くて…」

「アーサ無理してるんじゃあないのか〜? 今日の旧市街視察の為に結構仕事切り詰めたんだろ? まあ、その視察も空振りに終わったけどな」
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