《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ああ、父上にはまだまだ敵わないよ。俺が心配するまでもなく旧市街の事を考えてちゃんと手を回してる…」

 ラインアーサは無事に旧市街の視察を終えてジュリアンと旧市街を見渡せる高台で一休みをしていた。
 一日を通して天気が良かった為、眼下には夕陽で橙色に染められた美しい街並みが広がっていた。
 旧市街・夕凪(ゆうなぎ)の都は楓樹(ふうじゅ)の都のある土地よりも低い土地にある。
 先々代の国王陛下が旧市街から今の都へと街を移したのだという。楓樹の都から旧市街へ行くには、坂と階段の街・ペンディ地区を通り、降りてゆかなければならない。
 治安の良いシュサイラスアでも、夜間にペンディ地区を通り抜けるのは避けた方が賢明だ。
 街灯が少なく足場の悪いこの区域はまるで訪れる者を旧市街へと誘い込む様にひっそりと口を開けているかの様な。───そんな場所だった。
 しかしその往来には既にライオネルの整備の手が加えられていたのだ。石畳は美しく整えられ街灯も増え、地区全体の雰囲気が以前よりも明るく変化していた。

「工事はだいぶ前から着工してたんだけど終わったのは最近でさ、おかげでだいぶ俺たちも街の警備がしやすくなったんだぜ? 本当に陛下には感謝してるよ」
< 190 / 529 >

この作品をシェア

pagetop