《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「は? だってお前、スズランちゃんの事気になってる癖にもういいって何だよ!」

「俺みたいな奴がスズランを……純粋な子を好きになったら駄目だろ」

 昨日スズランが向けてくれた笑顔とたった今聞いた話で思い知った。
 純粋で素直で一片の穢れもないスズラン。
 それに比べ、ラインアーサのこの数年間の女性関係は褒められた物ではない。例えそれが情報を集める為の行動だったとは言え、女性たちをそういう対象に捉えていたのだから。自身にはそれを全て理解した上でも尚、動じることのない(したた)かな令嬢との政略結婚あたりが似合いなのではないかと思った。
 スズランと自分は不似合いだ。ならばこの想いが募る前に忘れてしまった方がいいのだと。

「昔の事気にしてんのか? 俺と夜遊びしてた頃の…」

「ああ、俺もジュリの事言えないな。ハリにも散々女性の敵とか言われてるしな」

 そう言って軽く笑って見せると、ジュリアンは面白くなさそうに顔を顰めた。

「アーサお前素直じゃあねぇな。大体その歳で初恋とかって面倒くさい奴だぜ。そんなぐずぐずしてるとあのセィシェルとかいう兄貴面した野郎に持って行かれるぞ?」
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