《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~

胸騒ぎ

 ラインアーサは王宮の広間に集まっている連絡隊の中にハリを見つけて駆け寄った。

「ハリ! 何か新しい情報は入ってるか? それと、何故父上が既に現地で動いてるんだ?」

「ライア、視察から戻っていたのですね。陛下は昨日、セラフィール様の元へとお出かけになったのですがそのまま戻られていなかった様で…」

「そうか、父上はお祖母様の見舞いにノルテへ出かけてたのか」

 誘拐事件が起こったノルテ地区は、都の北側の山間部にある区域で小さな集落しかない。だが、シュサイラスア大国ではもっとも穏やかで平和な地区だ。
 都市部より空気が良い為、先代国王の妃 セラフィールが別荘を構え療養している地でもある。内乱後に移り住んできた避難民たちにも密かに人気が高い。

「あんなにのどかなノルテで誘拐事件…? ジュリ、ノルテの警備体制はどうなんだ?」

 自国の警備体制を疑う訳ではないがラインアーサは顔を顰めてジュリアンに尋ねる。

「確か……ノルテ地区は駐屯部隊が二交代制で警備してる筈だぜ」

「そうか。……ハリ、被害者はどんな人物か分かるか?」

「ええ。ただ今情報が入ってきたので。その情報によりますと、被害者は十代半ばの少女の様です」
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