《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ハリの言葉とイリアーナの不安げな眼差しを受け、ラインアーサは止むを得ずノルテ地区での一連の出来事をイリアーナに伝えた。やはり当時を思い出して気分が優れないのか、イリアーナは片手で口元を抑え俯きがちに肩を震わせていた。

「……ごめん、姉上。嫌なことを思い出させてしまって」

「イリア様。横になられた方が……」

 呼ばれてすぐに駆け付けてくれたリーナが、心配そうにイリアーナの背に手を添えている。

「いいえ。わたしなら大丈夫よ、ありがとうリーナ。それよりも、その攫われてしまった子が気がかりでならないわ! あの時とは状況も違うだろうし、あまり参考にはならないかもしれないけど。……わたしの話を聞いてくれる?」

「姉上が、無理じゃあ無いなら……」

 イリアーナは、ぽつりぽつりと身に起きた当時の出来事を打ち明けた。その内容が確かならば、ラインアーサが今まで密かに想定していた疑惑が一気に解明される。
 空間を歪めながら現れる黒い裂け目。
 今までライオネルやジュストベルに尋ねてもはぐらかす様に躱されてきたが、〝黒い裂け目〟それこそルゥアンダ帝国の扱う移動術。
 空間移動の魔像術(ディアロス)に違いないのだ。ラインアーサは吐き気に似た感情をぐっと飲み込んだ。
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