《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ははは、息子に心配されるのでは私もまだまだだなぁ。私ならちゃんと休んでいるよ? 昨日も休暇をとって息抜きがてら母上の見舞いに行ったのだからね。だが同じ地に居ながら事件が起こるのを防げず。不甲斐なさばかりが先立つよ」

「それは父上のせいじゃあないよ。早く実行犯を突き止めないとならないのは確かだけど…。そういえば、お祖母様は元気だった? 俺も会いたかったな」

 以前はこの王宮で共に暮らしていた祖母・セラフィール。内乱前から体調を崩す事が多くなり、養生の為環境の良いノルテ地区の別邸へと身を移したので簡単には会えなくなってしまったのだ。幼い頃のラインアーサは、セラフィールに良く懐いていた。

「元気だったよ。アーサの活躍を伝えたらとても喜んでいた」

「俺は別に活躍なんかしてないって」

 ラインアーサははにかみながら指で自身の耳飾りに軽く触れた。

「そうか。お前の耳飾りは母上から譲り受けた物だったな」

「そう、右の耳飾りを片方」

 ラインアーサだけでなく、シュサイラスア大国の王族たちはローゼン家に伝わる紋章が入った茜色で円型の耳飾りを常に身につける慣わしがある。これは王族だけが身に付けられる代物なのだ。
< 209 / 529 >

この作品をシェア

pagetop