《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ノルテ地区へと移ると決めたその日、セラフィールは耳飾りの一方をラインアーサへと譲り渡してくれた。

「───あの日は、アーサがあんまりにも落ち込んで拗ねてしまったからね」

「もう勘弁してよ。当時は俺だってまだまだ子供だったんだからな! でも、お祖母様から頂いたこの耳飾りはずっと大事にしてる。左耳にも同じものを作って、いつも身につけてるよ」

「そうだな。これからも大事にするといい。実は私の耳飾りもお祖父様から譲り受けた物なんだよ。片方は母様に……アナに贈ったがね」

 ローゼン家のこの耳飾りは大切な人に贈るという古い伝統風習があり、それを身内ではない異性に贈る行為は求婚を意味する。ライオネルも求婚の際にエテジアーナへ贈ったのだろう。
 自然と母の話題になったのでラインアーサは思い切って聞いてみることにした。

「父上、やっぱり気になるから聞くけど……母様が古代リノ族の能力を持っていたって本当? その能力って一体どんな物なの…?」

 ラインアーサは何故かその能力のことが気に掛かり、どうも落ち着かないのだ。それはまるで大切な何かを失念してしまった時の、気持ちの悪い感覚に似ていた。
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