《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 聞けば、昨日に続き今日も旧市街は城下の街と同じく平穏な一日だった様だ。それでも気を抜かずに旧市街を警邏して回ったが、何処にも異変は見当たらず逆に違和感を覚える程だったらしい。
 警邏を切り上げようと、最後に飲食店の前を通り掛かった。入口前を一人で掃き掃除する従業員の女性を見掛け、注意を呼びかけようとジュリアンたちが近づいた瞬間の出来事だ。
 女性はものの数秒で、突然出来た空間の歪みに引き込まれ跡形もなく消えたという。飲食店の主に確認を取り、既に王宮には報告済みだというがジュリアンはますます項垂れてしまっている。
 その他の地域はやはり何時もと変わらず異変は見られない、との報告だった。が、まだスール地区に行った班が戻ってきていない。

「とにかくジュリ。スール行きの班が戻り次第、王宮へ戻ろう」

「ああ……」

 何とか意気を入れ直しジュリアンが立ち上がる。丁度そのとき、スール地区担当の班長である アマランタが血相を変え、足早にジュリアンの元へと向かって来た。そしてラインアーサたちの前に片膝を着くなり頭を下げた。

「殿下、隊長…! 申し訳ございません! このアマランタ、不覚を取りましたっ…。つい今しがた我々の目の前で少女が攫われてしまい…!」
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