《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ラインアーサは片手でスズランの頬を優しく包み込む様に触れ、瞼にそっと唇を落とした。

「涙が、止まるおまじない……」

「…っ」

 最後にもう一度あの笑顔が見たくて幼い頃の様に 〝おまじない〟と称した。
 だがやはりスズランは笑顔を見せず、呆けた様に言葉を失ったままこちらを見つめ返している。同様にセィシェルも茫然とその様子を眺めていた。

「……おい! セィシェル。頼みがある」

「なっ、なんだよ!」

「スズランを早く店の中に連れて行ってくれ。そしてマスターを呼んで来てほしい」

 ラインアーサはスズランの手を引いてセィシェルに軽く頭を下げる。

「何なんだいきなり! 言われなくてもそうするし! それと親父となに話そうってんだよ……親父だって店があるから、連れてくるなんて…」

「───セィシェル。この方の言う通りにしておくれ……」

「親父!?」

 声がした方へ振り向くと、酒場(バル)の裏口の扉の前にユージーンが傘をさして立って居た。

「セィシェル。スズを部屋で休ませたらカウンターはお前が入れ」

「は? 俺が!? 無理だって!」

「厨房はレフに任せて来た。ソニャにも少し場を離れると言ってあるから大丈夫だ……」
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