《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ラインアーサは傘を手にユージーンに詰寄る。しかし、ユージーンはその姿勢のまま続けた。

「アーサ様…。我が子の数々のご無礼、誠に申し訳ございません。セィシェルもスズランも、これまで貴方様にとんでもなく失礼な言動を…」

「いや、本当に違うんだマスター。こっちが何も言ってなかったんだ…。だから二人は全然悪くない。お願いだから顔を上げて欲しい」

 そもそもラインアーサは地位を利用し、権力を振りかざすのを好まない。それでもユージーンは中々顔を上げようとしなかった。

「……じゃあ、着替えを貸してくれないか? あと、マスターに大事な話がある。聞いてほしい」

「仰せの通りに…」

 結局ラインアーサも酒場(バル)の中に入り、厨房隣の小さな控え部屋で借りた服に着替えた。
 ユージーンの待つ客間に移動すると、ふわりとした珈琲の薫りにささくれだっていた気持ちが和らぐ。濡れてしまった服を乾かしてもらいながらひとつひとつ話の詳細をユージーンに伝える。
 今現在シュサイラスア国内で起きている事件について───。
 そして、首謀者の意図はまだ把握できてないが被害者の少女達が何故か未成年の孤児である事。それも内乱後にこの国へ移住してきた者ばかりが狙われていると言う事実を告げた。
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