《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「んん? 待ってくれ。母に妹が居るのか!? 俺……知らなかった!!」

「え、ええ。マリアーナという名でして、残念ながら彼女は内乱の暴動時に亡くなっているのですが……」

「……そう、だったのか」

 ユージーンがふと、寂しげな表情を浮かべた様に見えた。

「……あの能力は人が当たり前に抱く痛み、悲しみ、苦しみや恐怖や不安など、〝負の感情〟に繋がる〝全ての穢れ〟を吸い取り、ぬぐい去ってしまうのです…。エテジアーナ様は困っている者を放っておけない方でしたから、その能力を惜しみなく発揮し身分や地位を問わず沢山の人々を救っておられました……」

「凄い! そんな術、聞いた事が無い…。だけど、何故それが忌まわしい能力なんだ?」

 そんな力を持っていたならば、自身もきっとエテジアーナと同様に街の人々を救う為に使うだろうとラインアーサは思った。

「私はエテジアーナ様以外にこの能力を持つ者を知りません。そしてこの能力は多用すれば術者の身体に吸い取った負の力が蓄積する性質のものでした。では、エテジアーナ様の身に降り積もったその負の力は誰が拭い去ってくれるのか?」

 ユージーンが苦虫を噛み潰した様な表情で話を続ける。
< 239 / 529 >

この作品をシェア

pagetop