《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
帰還と再会
特別室───。
ラインアーサはこの部屋自体に結界を張り、更に護衛を二人付けそれでも安心し切れず部屋の〝主〟自身にも護りの煌像術をかけている。そこまでしてもラインアーサが守りたい人物……。
特別室は一般個室と比べ物にならないほどゆったりとした空間に大きく窓が取ってある。しかし景色を楽しむための窓には垂れ絹が掛けられており、室内は薄暗い。部屋の主は垂れ絹をそっと開き、外の景色を眺めていたが不意に振り返るとラインアーサに気付いた。
「アーサ!」
父と同じくラインアーサを愛称で呼び、その優しい顔立ちも父と良く似ている。長い間顔を見ることも叶わなかったが、唯の一度も忘れたことは無い。この十一年でとても美しく、大人の女性へと成長していた────。
「気分はどう? 姉上」
姉、イリアーナは不安と喜びが入り混じった眼差しでラインアーサを見つめた。緑玉の様に澄んだ瞳は母の瞳と同じ色。ラインアーサと同じく、焦がし砂糖を垂らした様な色合いの髪は肩のあたりでふわりと癖が付いている。