《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 今日は一日のうちに色々な事があった。
 明日も忙しくなりそうだ……。

 ────スズラン。結局彼女を王宮で保護する事は出来なかったが、細心の注意を払って様子を見よう。他に気がかりなのは母の事だ。エテジアーナの能力を隠されていたのはとても衝撃だった。妹がいた事すら知らなかったのだ。
 しかし今はそれよりも、早く事件を解決させなければと気持ばかりが急く。未成年の街娘がこれ以上被害にあっては民の不安が募るばかり。ラインアーサは何から手をつければ良いのかを必死に考えた。

「……民の安全が最優先だ」

 様々な思いを飲み込むとラインアーサは深い溜息をつく。明日朝一でライオネルに報告も兼ねて相談をしよう。

「ハリとジュリには悪い事をしたな。それも謝らないと……」

 ラインアーサは自室の浴室で熱めの湯に浸かりながら一日の疲れを解した。けれどもやはり最後には、あのスズランの縋る様な眼差しを思い出す。締め付けられる胸の痛みを誤魔化す様に自虐的に笑ってみる。

「はは、初恋は実らない、か。よかったじゃあないか……ああも嫌われれば諦めがつく」

 喉の奥が張り付く。それを更に誤魔化そうと、頭を左右に激しく振り立ち上がった。

「失恋の痛手にはやっぱり酒かな…。いや、やめておこう」

 床に就くと酒に頼らずとも急激に睡魔がやってきて、ラインアーサはそのまま朝まで泥の様に眠った。



 ⌘ 遷り変わる星霜 ⌘  終
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