《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「言わせておけばいいよ。それに殆ど事実だしな」

 その人物の問いに、ラインアーサは自嘲的な笑みを浮かべる。

「……全く。もう此処へは顔を見せないと思っていたのに」

「俺もそのつもりだったんだけどな。でも、来るって分かってたんだろ?」

「そうね。全ては星々のお導きによるものよ…。今回はまた随分とお困りのご様子ね? ライア」

 ランプが妖しく灯る薄暗いカウンターの向こう側には、海の如く碧い虹彩を持った人物が居た。その瞳で(たしな)める様な視線を寄越したかと思えば、にこりと柔らかく微笑んだ。

「……困ってるって言うか、わからないんだよ。どうすればいいのか」

「あのね。それを困ってるって言うのよ? やれやれね」

「はは、かなわないな。ヴァレンシアには」

 短く息を吐くとまた小さく苦笑するラインアーサ。
 対するのはこの古い酒場(バル)の女主人、ヴァレンシアだ。波うつ青い髪を高い位置で結い上げ、華奢な硝子と金細工の髪飾りで纏めている。
 星を読む特技があり、報酬次第で気まぐれに客を占い生計を立てている。頼まれれば強力な(まじな)い等もかけると密かに噂されている旧市街では名の知れた人物だ。

「ふふ。ライアは全然変わらないわね」
< 248 / 529 >

この作品をシェア

pagetop