《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 店を飛び出し辺りを見渡す。暗くひんやりとした人影も殆どない狭い路地を、傘も差さずに走り去るスズランの後ろ姿が目に留まる。
 あの日から数日が経過した今も、雨は止む事なく降り続けている。この長雨の影響で、未成年者だけでなく民全体が外出を控え始めた。おかげで誘拐そのものはパタリと収まっているものの、犯人から見返りを求める動きが起こる事はなく、これまでの被害者達の行方もまだ掴めていない。

「スズランっ! 待てよ!!」

 すぐに後を追い、追いつくと逃れようと抵抗する腕を強引に掴みあげた。

「っ…あっ!!」

「……スズラン!! 本当にスズランなのか? 何で逃げるんだ?」

 幻ではないかと疑う。

「っ…らい、あ…」

 スズランの声が耳に響く。
 少し掠れ気味だが、紛れもなく愛しくて想い焦がれて仕方のないスズランの声だ。

「っ…何故此処に? お前くらいの年頃の奴には外出禁止令が出てる事位、知ってる筈だろ? そうじゃあなくても旧市街は危険だって言うのに…!」

 走った為か苦しそうに肩で息をしているスズラン。

「はなし、て…っ」

「離してじゃあないだろ!? 夜の旧市街がどれだけ危険な場所か知らないのか? お前みたいな奴はすぐに……」
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