《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 即刻。丁寧に癒しの風をかけ、ゆっくりと傷を癒してゆく。

「ぁ、っん…!」

「どうだ? ……もう、痛くないか? たぶん痕は残らないと思うけど。他に痛い所は?」

「へ、平気……いつもありがとう。わたし、なんてお礼を言ったら…っあ!?」

 ラインアーサは再びスズランを胸元へ抱き寄せた。

「礼なんかいらない」

「ライア!?」

「会いに……来てくれて、ありがとう。すごく嬉しい……」

 あの日からこの想いを断ち切らねば、と必死になっていた。だが、スズランを目にした瞬間、それは到底無理なのだと実感してしまった。

「ライアっ! ……わたし、わたしね」

「…?」

 スズランが何か言いたげに言葉を巡らせている。その間にも雨足は強まり二人の身を容赦無く冷やしてゆく。

「や、やっぱり、なんでもない…」

「……まずいな。雨が強くなって来た、移動しよう。スズラン、立てるか?」

 ずぶ濡れの二人。今更だが持ってきていた傘を開き、スズランをその下へ招き入れる。

「……え、これわたしの傘!? なんでライアが持ってるの?」

「この間マスターが貸してくれたんだ。なかなか返せなくて悪かったな」

「そうだったんだ、びっくりした」
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