《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ヴァレンシアは一度は結婚している。
 しかし現在その相手とは離縁し、女手一つで育児に奮闘中だ。

「っ…え、えええ!? 全然そんな風に見えないよ…? だって二人はとってもお似合いに見えたし、すごく親密そうだったし…。それに、それにわたしの邪魔がなければライアとあの人っ…キスしそうだったもん…っ」

 確かに以前はそんな間柄だった事もあった。それ故か、傍目にはそう見えてしまうのだろうか。
 今にも泣き出しそうなスズランと目が合い、ラインアーサは今度こそ淡い期待を確信に変えた。

「スズラン…。お前やっぱり妬いてるだろ」

「…っ」

「ほら、行こう。あそこの高架橋をくぐればすぐだから。とにかく着替えだけでもしないと、また風邪をひいてしまう」

 顔を真っ赤に染めて俯くスズランの手をしっかりと握ると傘を片手に歩き出す。

「ま、まって! ライア。わたし…」

「もっとこっちにおいで? でないと雨に当たる」

 スズランを傘の下へと引き寄せる。どう控えめに見ても嫉妬している様子のスズランに、今まで悩んでいた事がまるで嘘の様に心が軽くなった。だがあくまで冷静を装う。気を抜くとうっかり口元が緩んでしまいそうだ。
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