《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「スズラン。奥の部屋でこの外衣(ガウン)に着替えてくれ。今着てる衣服は洗ってもらうからこの(とう)の籠に」

「っ…あの……まって!」

「大丈夫だよすぐに乾くから。それに身体も冷えてる、このままじゃあ駄目だろ」

「う、うん」

 躊躇するスズランに外衣(ガウン)を手渡し、少々強引に奥部屋へと押し込む。とにかく疲れきって冷えた身体を温めて、ゆっくり休ませてやりたかった。
 ラインアーサも簡素な服に着替え、雨で濡れた服をジルへと渡す。

「じゃあ二人分頼むよ。そうだな、出来ればあと──…」

 一通り用件を言いつけると、早々にジルを部屋から退出させた。

「……スズラン? どうした。そんな部屋の隅じゃなあくこっちにおいで?」

 気が付くとスズランは部屋の隅で困った様な顔をしていたが、声を掛けるとおずおずとラインアーサの方へ近づいてきた。

「……ここって、あなたのお家なの?」

「違うよ。たまに利用する宿なんだけど、俺も来るのは久々かな」

 慣れない場所でがちがちに緊張しているスズランがとても可愛らしく、思わず笑みがこぼれてしまう。

「……そ、そうなの?」

「ああ。ほら、風呂に湯を張ってもらっておいたから先に温まっておいで」
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