《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ん? どうかしたの?」

「ちがうの。だってやけに口がうまいんだもの。お父様に似てきたんじゃあないかしら、姉としては心配よ」

「大丈夫、父上は母様一筋だったから心配ないよ」

「うふふ、そうね」


 そうやって久方ぶりに姉と弟らしい会話を続けている間、列車(トラン)は着々と都に近づいてゆく。
 ラインアーサは懐かしい風景を眺めながらイリアーナと昔話に花を咲かせた。



 *   *   *



 列車(トラン)が滑り込む様に王都の停車場へ入ってゆく。
 別れの場所であり、出発の場所でもあるこの場所は、シュサイラスア大国の中でも大きな賑わいを見せている。
 停車場の(ホーム)を踏みしめると、自国の空気を肌で感じて一息付きながら背伸びをした。

「んー! いつも思うけど、自分の国が一番落ち着くな」

 同時に心地の良い風に包まれ、ラインアーサは(たの)しげに呟いた。やわらかい風が頬を、髪を優しく撫ぜてゆく。
< 27 / 529 >

この作品をシェア

pagetop