《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 不思議そうに顔を覗き込んでくるスズランだが今は目を合わせる事が出来なかった。顔どころか耳や首筋までもが熱い。

「ライア?」

「そんなに危険な仕事じゃあないよ。それにちゃんと仲間もいるから大丈夫だ…」

「そうなの? ……あ、仲間ってジュリアンさん?」

「そう。ってスズラン、ジュリとは随分気が合うみたいだな…!」

「そんなこと! だけど、この間うちの店に来てくれたから少しお話とかも…」

「……ふーん」
(まさかジュリの奴、頻繁にスズランの酒場(バル)に通ってるのか…!? また色々と余計なこと吹き込んでないだろうな…)

 そんな事を考えながら歩いているうちに旧市街を抜け、城下の街へと差し掛かる。
 霧は次第に晴れてはきたが、今にも雨粒が落ちてきそうな雲行きだ。
 スズランに目を向けると息が上がり華奢な肩が上下していた。

「……は、ぁっ」

「疲れた? ずっと登り坂だったもんな。それにまた雨が降ってきそうだ……」

「へい、きっ…。でもちょこっとだけ休憩してもいい?」

「そうだな。そこの大きい段差に座って少し休もう」

 旧市街から城下の街へ行くには列車(トラン)を利用するか坂の街・ペンディ地区を通るしかない。
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