《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 列車(トラン)を利用するよりもペンディ地区を歩いて抜ける方が酒場(バル)へは近道だが、何分急な坂や石段が多く足場が悪い。

「ありがとう、ライア。も、平気だから……急がなくちゃ…」

「そんなに急ぐなよ。ちゃんと送るから」

「でもっ…! あ、雨!」

 二人の時間を削る様に大粒の雨が一つ、また一つと石畳に模様をつけてゆく。

「やっぱりまた降ってきたか……ほら傘に入ろう、もともとスズランのだけどな。全く…。のんびりはしていられないって事か」

「ライア……」

「よし。急ごう!」

 まだ朝早く、雨が降る人気の少ない城下の街を二人を隠した赤い傘が通り抜ける。少しでも長くスズランと二人で居たかったのだが、あっと言う間に酒場(バル)へと到着してしまった。

「着いたな」

「うん…。もうここで大丈夫だよ。マスターとセィシェルにはちゃんと自分で謝るから…」

「いや、俺も一緒に行くよ。マスターに話があるんだ」

 手をつないだまま二人は酒場(バル)の裏手へと回り込む。

「話って…? この間も…」

「なあ、スズラン…。もし、嫌じゃあなかったらなんだけど、しばらくの間。王宮に来ないか?」

 王宮でスズランを保護すれば今回の様な心配もしないで済む。
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