《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 急いで横庭に出ると雨上がりの空気がラインアーサの身を包んだ。肌を擽る様に優しい風が吹く。

「スズラン!? いるのか?」

 思わず叫んでいた。しかし横庭に人影はない。それでも森の樹々が騒めくのでラインアーサは石橋を渡り森に足を踏み入れた。すると薄暗い森の中の小道にうずくまる様に屈んでいる人影があった。

「スズラン…っ」

 屈み込み肩を震わせている。泣いているのだろうか。ラインアーサはそっと近付き膝を着いて屈み込むとスズランを背中から抱きしめた。

「……スズラン。泣いてるのか? いつからここにいたんだ…? こんなに冷えて」

 スズランは一瞬身を硬くさせたが直ぐに言葉を発した。

「……警備、、さん……」

 この後に及んでその名で呼ばれるとは思っていなかったが驚きながらも返事を返す。

「!! ……あ、ああ。駄目だろスズラン。また店を抜け出したのか? ……今一人になったら危ないんだ。いくら此処が安全だとしても、もう一人でこの森へ来ては駄目だ」

「っ…!」

「……店に戻ろう。送るから」

「いい、です。一人で戻れます…」

「どうした…?」

 いつになく余所余所しいスズランの態度。
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