《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 先ほどよりも更に痛む心臓の上で拳を強く握り締めた。スズランを守る役目は自分ではないのだと思い知らされる。

「……馬鹿だな、俺。また泣かせて…。今度こそ完全に嫌われた。結局、傷つけてばかりで……でも、それでも、、この気持ちは……諦めたくない」

 自身でもこの往生際の悪さに驚く程だ。
 セィシェルの前であんな見栄を張らなければ良かった。身を引くなんて到底出来る訳がなかったのに。ひと時でも気持ちが通じ合えた気がしていい気になっていた。あの幸福感を忘れる事が出来ない。

 初めてこんなにも誰かを好きになった。
 初めて嫉妬や独占欲という感情が芽生えた。

 守りたい。悲しませたくない。
 嫌われたくない。

 側にいたい。
 側で微笑みかけてほしい。

 誰にも渡したくない。
 本当は……独り占めしてしまいたい。

 スズランは物ではないのに、自身の想いがどんどん貪欲になっていくのが分かった。分かっていた癖に自惚れて欲した罰だろうか。ずっと誤魔化してきたがそんな身勝手な想いこそ迷惑だろう。

「スズラン……」

 スズランには笑顔が似合う。
 あの子の笑顔を曇らせたくはない。
 それだけは守らなくては。この手でスズランを守れなくてもあの笑顔だけは守りたい。

 ラインアーサはその場に立ち尽くし、暫くの間スズランの部屋の窓を見上げていた。



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