《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ラインアーサは一つの物事に特化して集中出来るが、そのまま勢いに任せ猛進してしまう様な所がある。対してジュリアンはいくつか策を練り慎重に事を運ぶ。集中には欠くとも視野が広いと言える。そこは古い仲だ。互いによく分かっている間柄。

「おっと、そういやハリは? お前の側近だって言うからには、てっきり今日も着いて来ると思ってたけど?」

「……ああ。ハリは少し気になる事があるらしくて……。今日は王宮で待機してもらってるんだ」

「へえ、珍しいな」

 前方のペンディ地区へ続く坂道に差し掛かった所で、坂の下から見覚えのある男二人組が登って来た。その二人組の話す内容が耳に届くなりラインアーサは歩みを止めた。

「っ…兄貴~! 今度こそ絶対に失敗出来ないっスよぉ!」

「っるせぇっ! 標的はもうあの小娘ってわかったんだ、今日こそあの酒場(バル)から引っ張り出してやるさ!! なあに、策は考えてある。もうすぐその時刻だ、急ぐぞ……」

 以前、街でスズランに絡んでいた輩だとひと目で分かった。そして今しがた耳に飛び込んできた言葉。
 〝標的〟〝小娘〟〝酒場(バル)
 もはやそれだけでラインアーサの身体は勝手に動いていた。

「おい…。今何と言った…!?」
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