《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「…っ! ……く…はっ…」

 熱を持った腕がどくどくと脈打ち全身に熱い血液が駆け巡る。強く瞳を閉じ、痛みに耐えながらゆっくりと息を吐き呼吸を整えてゆく。
 ───荒い呼吸が落ち着いてくるとともに腕の痛みも引き、真っさらだった脳内が色付いてくる。

「……何処だ、此処は…? …っそうだスズラン!! 無事なのか!?」

 ぼんやりとしていた記憶が一気に鮮明になり、一番にスズランの安否が気にかかった。あれからどの位の時が経過したのだろう。確かめる術もなく焦りがだけが増す。
 不意に気配を感じ取った。研ぎ澄まされた五感を通して数名分の気配が伝わる。部屋の隅の方で何名かの息遣いが微かに犇めいている。

「っ…誰か居るのか? ……居るなら返事をしてくれっ!!」

 そう声をあげたが返事は無い。
 暗く静かな空間にラインアーサの手首を拘束している縄の軋む音が響く。暗闇に目が慣れ、次第に空間が把握出来る様になる。どうやら何処かの部屋の一室らしいが窓らしき物が見当たらず、一切の光が遮断されていた。
 憶測の域は超えないが、恐らく此処は例の廃屋敷だろう。そんな直感が働く。
 そして数名の気配はこの事件で攫われた被害者たちの物だろう。
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