《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「涙、止まった?」

 大きな瞳を更に見開き驚き戸惑った顔をしているかと思えば勢い良く話し出すスズラン。

「…っそのおまじない! この間もしてくれた、よね…?」

 確認されると流石に照れくさい。

「ん。まあ、俺が咄嗟に考えたやつだから…」

「ライアが考えたの? ……でもわたしずっと前から知ってる…」

「知ってるって……覚えてるのか?」

「覚えてるって、なにを…? えっ…! まってライア! 手首が、、 ひどい傷……もしかして他にもどこか怪我してるの?」

「なんだ…。こんなの大した事ないよ。自分で治せるから。そんな事よりもそのおまじないの話…」

「だめだよ! すぐに手当を……あ、ここも赤くなってる…」

 自身の怪我などすっかり忘れていたが、唇の端に優しく触れるスズラン。たったそれだけで心臓は正直に脈を打つ。

「っ…大丈夫だって。口の中を少し切っただけだから…」

「痛い? よね…。だったら、わたしの知ってるおまじないでライアの痛いの、治せたらいいのに……」

「スズランが知ってる、おまじない?」

「うん…」

 煌めく瞳がラインアーサを捉えて離さない。見つめ合うと何時だって時が止まった様に感じた。
 ───やはり不意打ちだった。
 唇の端に感じる小さなぬくもり。
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