《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「仰せの通りに…」

 ユージーンはセィシェルと一緒に頭を下げ、ラインアーサを見送ってくれた。よく見るとセィシェルの頭はユージーンの手によって強引に下げさせられていた事に苦笑しつつ酒場(バル)の裏口を後にした。
 王宮への帰路。森の中である事に気付く。

「───!? ……っ、いや。そんな…」

 驚きながらもラインアーサは自身で全身を確認する。拘束時に縄で傷付いた手首、切れた口の中、その他の細かい傷や怪我。果てには無理矢理風を喚んで消耗した体力までも。
 今のラインアーサ身体は一点の不安も無い絶好調時そのものだった。ここへ来る前まではほぼ満身創痍といってもおかしく無い状態だったのにもかかわらず、そのほとんどが全回復している。

「まさか、スズランが…?」

 おもむろに指で唇をなぞり、スズランからのおまじないと称した口づけを思い出す。あの時全身に感じた衝撃と甘い痺れ。おそらくそれが作用したのだろうと考えた。
 ラインアーサも回復系の煌像術(ルキュアス)は得意としているが、あの一瞬でこれ程まで全身を完璧に回復させるのにはかなりの力を消耗する筈だ。
 スズランが無意識のうちに何らかの回復術を使ったのだろう。そう考えるしかなかった。そしてそれは癒しというより、浄化に近い。
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