《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 ラインアーサは非公式、すなわちお忍びで街を出歩くのが趣味。という困った王子であった。王子という立場からでは普段触れることの出来ない些細な情報や、何気無い街の雰囲気を旅人に扮して触れるのが好きなのだ。

「眠いんじゃあなかったんです? それに、もうすぐ日没です。……すぐ戻りますから、その辺りで待っていてください。私は一応、貴方の側近ですからね」

「お、話がわかるじゃん! じゃあ俺は適当に時間潰してるから、城下にあるすぐそこの酒場(バル)で落ち合おう」

「はあ……分かりました」

 ハリは呆れた様な溜息を溢しながら、足早に王宮へと戻っていった。


 ラインアーサはマントを羽織り直すと、ある場所へと足を運んだ。王宮を囲む城壁の横手にある小さな森。幼少の頃からの、ラインアーサのお気に入りの場所だ。
 以前と変わらぬ風景。美しい小川のせせらぎに小鳥が囀り、心地の良い風が吹き抜けラインアーサを癒す。

「ここは昔と変わらないな。小さい頃は良く来てたけど……」

 ラインアーサはふと、あの夢の続きを思い出していた。
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