《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 その場にへたり込んでしまったスズランを優しく抱き立たせるも口元が緩む。

「まいったな……」

「意地悪! またそうやってからかって…」

 対してスズランは真っ赤な頬を膨らませちっとも迫力の無い潤んだ瞳で睨み上げてきた。その煌めく瞳に捕らえられるともう駄目だ。

「からかう? 俺は初めからずっと本気だけど」

「っ…! なんか頭がふわふわして……もう! 今からお仕事なのに」

 今のスズランは誰の目にも扇情的に見えてしまう。申し訳無いがそんな状態では仕事にならないだろう。そうなれば休む他ない。

「ごめん。でも俺には好都合…」

「え? どうして…」

「いや、別に」

 以前から感じていたがこの酒場(バル)の給仕服はどうも露出が高い。このひと月の間、他の男客の目に触れない様にと裏で様々な小細工をして来た。日頃から同様に地道な努力をしてきたであろうセィシェルに共感してしまう程だ。
 もう一度瞳をのぞき込み、自然と互いの顔を近づけた。だが唇が重なる寸前、調理場から聞こえてきた声に邪魔をされる。

「スズ、居るか〜?」

「残念。時間切れ……俺もそろそろ行かないと」

「ライア、まって……ん…っ」

 さらう様に口づけると頬が更に朱に染る。先程からくるくると変わる表情に思わず目を細めた。
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